ガラス
割れたガラスの上でも
私は走って生きていく
それが与えられた路ならば
私は走って生きていく
いつか光って見えたけど
本当は痛くて哀しくて
いつか誰かに話したい
笑って誰かに話したい
私の心を爆破した
あの騒音は今も消えない
再生され始めた私の心に
あの出来事はずっと消えない
眠りから覚めた
無邪気な子供のように
いつか誰かに話したい
笑って誰かに話したい
そんな日が来ることを
今は静かに祈っていること
いつか誰かに話したい
笑って誰かに話したい
鉄の殻
だれにも止められない勢いで生きてきた
早送りのビデオみたいに
何も見えずに何も感じないで
一度止まったらそれきり
動けなくなる気がして
私は鳥の羽の下
冷たい鉄の殻の中
まだ本物の空を知らず
本当に羽があるのかも分からない
哀しみ
深く深く沈んだ哀しみに
付けて呼ぶ名はありませんか?
重い鉛に引きずり込まれてゆく哀しみを
引き上げる綱はありませんか?
海底に忘れ去られた哀しみを
捜しにゆく船はありませんか?
沈黙の苦しみが答えなら
せめて今日の哀しみを
休ませる浜辺を与えてください
いつか呼ぶ名を見つけたら
私は叫び続けるでしょう
いつか丈夫な綱が見つかれば
私は力強く引き上げるでしょう
いつか頑丈な船を見つけたら
私は諦めずに何処までも捜しにゆくでしょう
今すぐ見つけられぬ願いなら
せめて今夜の虚しさが
消え去る朝日を与えてください
ドア
私が選んだドアの中はいつも
間違いだらけの解釈と
不吉な予感のする未来
両手を広げ私を向かい入れる懐かしい場所に
安堵さえ感じる
だけどだれ一人このドアには入ってこない
みんなには見える
透明の <立ち入り禁止>の文字を
私だけが見えていないとは気づかずに
みんなが選ぶドアの中に
正確に飾ってある立派な絵が
どんなに素晴らしくても
私にはどうしてもどう見ても腐って映る
ひとりで居られる場所を探してたんだ
隠れるにはちょうどいい部屋だったんだ
誰も捜しに来ないし
誰も私を知らないから
今更ドアの外から呼ばれても出てはゆけない
神様のロープ
天から伸びてる一本のロープを
私は必死に掴んでる
神様はロープを揺らして
私がどれだけ頑張れるか試してる
もう力も尽きて片手を離したら
神様は手を止めたけど
強風と豪雨でロープは激しく揺れ続けた
いつでも手は離せるけど
私は何故だか掴んでいる
破滅に向かう自分との闘いには
疲れ果てているのに
神様がいくつもの試練を
私に与えてくださるのは
意味があるとは解ってはいるけど
手のひらのまめは潰れて
ロープを真っ赤に染める程
私は罪深いから
振り落とされると言われてた
だけど私が何度も
振り落とされる寸前に来ても
そのロープを離さずに生き延びているのは
かすかに響いている神様の声を
信じたり疑ったり迷いながら
空を見上げているからかもしれない
「生きててよかったって日が来るから」
いのちの声 こころの詩
生まれてきてよかったのか、
そんな問いが心から離れなかったひとりの人間は
詩を書くことで生きてきた